『  鳥になって  ― (1) ― 

 

 

 

  カタ カタ カタ  コッ・・・  コン コン ・・・

 

キッチンからはかなり前から なんとな〜〜く不安そうな音が

断続的に聞こえてきている。 

・・・ その割りにはいわゆる いい匂い とか 温かい湯気 とかは

全然漂ってこない。

 

「 ― うん?  フランソワーズはまだ帰ってきておらんのかな 

ギルモア博士は 夕刊から視線を上げ首を廻らせた。

「 ・・・ こんな時間か ・・・  ということはキッチンにいるのは 

 ジョー か?? 

どれ と 博士は肘掛椅子から立ち上がった。

「 おや カーテンもまだ開けっ放しじゃったか ・・・ 」

いかん いかん、と 博士はリビングとダイニングのカーテンを引いた。

夕闇がすっかり辺りを支配し始めていた。

「 おや ・・・ 夕陽に富士の姿がくっきり じゃ ・・・

 ― 美しいのう ・・・  ほんにこの地に住んでよかった なあ 」

しばらく 夕闇迫る光景に見とれていたが 少し冷え込んできたので

さすがに 部屋の奥に引っ込んだ。

「 おお 冷える・・・  どれ ヒーターをいれるか・・・

 ここは陽当たり良好じゃから 太陽光発電でほとんど賄えるな 」

 

     ゴ −−−−   広い居間も ほんわり温かくなってきた。

 

  トントン  トン ・・・・ ギュ ギュ 

 

キッチンからの音はまだ続いている。

「 ??  なにをしておるのかな ・・・ 手こずっておるか

 おい ・・・ ジョー? 手伝うぞ 

 

  パタン −−−  キッチンのスウィング・ドアを開け覗きこむ。

 

「 ジョー ・・・? 」

「 え〜〜と ・・・ まず 出汁を作る んだよなあ 」

茶髪ボーイが 花柄のエプロンをしてガス台の前でぶつぶつ言っている。

「 ・・・ ジョー ・・・ どうか したかい? 

「 そして 火の通りにくいモノから ・・・ か。

 あ 博士〜〜   あのう 晩ご飯 まだなんですぅ〜〜 

 すいません〜〜〜 」

ジョーは やっと鍋から顔を上げた。

「 ああ?  まだ そんな時間ではないよ ・・・

 やあ 今日はジョーが夕食当番なのかい 

「 え ・・・ あ いや。 そうじゃないんですけど ・・・

 フラン、少し遅くなる って 

「 ・・・あ〜〜 公演も近いからのう ・・・

 リハーサルで忙しいのじゃろうな 」

「 ええ そうらしくて。

 ぼく 今日仕事 早上がりだったから ― 作ろうかなって 

 そのう ・・・ 晩ご飯 を 

「 え???  ジョーが  かい ― できるのか?? 」

「 ・・・ 博士〜〜〜 そんなに驚かないでくださいよう〜〜

 ぼくだって ・・・ なんとか  なる かも 」

「 いや いや 申し訳ないな 

 それで ジョーは何を作ろうとしておるのかい 」

「 え あのう ・・・ へへへ クリーム・シチュウ ・・・

 で できるかな ・・・ あの 冷蔵庫に牡蠣 あったし 

「 おお オイスター・シチュウか! それは美味そうじゃなあ 

 ・・・で 大丈夫 かい? 」

「 えっと ・・・食糧庫に シチュウのもと ってのがあったから

 それ使いマス。 箱の裏に < つくり方 > って あるし 」

「 そうか〜〜  あの ワシができることがあれば 言っておくれ。 」

「 あ〜〜 ・・・・ えっと 炊飯器はonになってるし

 あ〜〜 そのう シチュウとご飯 だけでいいですか 」

「 そうか〜 では ワシはサラダでも作ろうかの。

 野菜室を覗いてみよう 」

「 わ〜〜〜〜 お願いします〜〜〜 」

「 よおし 任せておくれ。 ワシはこれでも若い頃はなあ

 ちゃんと自炊しておったのだぞ 」

「 へ え ・・ 」

「 その頃は あの便利なカップ麺 なぞ 身近になかったからなあ 」

「 へ え ・・・ 」

「 ど〜れ ・・・ ああ レタスにキュウリか

 トマトもあるな〜〜  うん 楽勝じゃ 」

博士は 野菜類をシンクに運び始めた。

「 あ ・・・ それじゃ お願いシマス。 

 ぼく シチュウに集中しますね 

「 頼む。  あ! ジョー。 牡蠣はなあ 入念に 洗う ことが

 必要だぞ。  たぶん 生食用 ではないだろう? 」

「 え ・・・ あ 加熱用 って書いてある! 」

「 頼むぞ〜〜 」

「 はい! 」

その後 二人は各自の<作業>に 没頭した。

 

「 ふう〜〜  なんとか ・・・ 切れたかな・・

 えっと次は 茹でるんだよなあ 」

ジョーは ぶつぶつ言いつつガス台の前に移動する。

「 ・・・ あのな 火の通り難いものから 先 だぞ? 」

博士は自分自身の手元をみつつも 声をかける。

「 え??   あ そか・・・!

 ブロッコリーから入れるトコだった・・・ 

 えっと ニンジン かなあ  」

「 ・・・ ニンニクを一かけ。 風味があがる 」

「 あ そか ・・・ あと じゃがいも たまねぎ シイタケ で

 シチュウの元 で・・・ あれ? 牡蠣はいついれるんだ??? 」

「 生煮えは × だが 煮過ぎも アウトじゃ 」

「 あ そか ・・・  最後に入れるのか ・・・ 

 あれ?? 味付けは 」

「 料理酒を少々 あとは味見して 塩 コショウ ! 」

「 あ そか ・・・ 」

「 ― と シチュウの元 の箱の裏に記載されておるはずだぞ 」

「 あ そか ・・・ あ  ほんとだあ〜〜〜

 ・・・ふんふん  なるほど ・・・ 牡蠣は洗うんだな 」

「 だ〜〜〜から  トリセツはしっかり読む! いいな  」

「 はあい ・・・ そっか そっか なるほど〜〜〜 

 トリセツって便利ですねえ! ぼく 初めてちゃんと読んだかも 」

「 ・・ やれやれ ・・・・

 コイツ、 < 009のトリセツ > をちゃんと読んでおるのか?

 ・・ まさか 本棚の間につっこんでそのまま とか  

 面倒〜〜 とか言って捨てたりしてないだろな??? 」

博士は 大いなる疑念の眼差しである。

 

   トン  トン トン −−−−

 

ご本人は背をまるめ 手元に集中しつつ かなりおっかなびっくり・・・

 ニンジンのいちょう切り に挑戦していた。

「 ふん ・・・ まあ 母国語だし甚だしいマチガイはないだろうさ

 さて ワシもサラダに集中するか ・・・ 」

博士も キュウリの薄切りに挑戦し始めた。

 

     ぐつ ぐつ ぐつ 〜〜〜〜〜〜

 

かなり経って 鍋が  グツグツ ・・・ なかなかいい音を立て始めた。

ほどなくして これもなかなか美味しそうな匂いも流れてきた。

 

「 お〜〜  ジョー なんか上手く行ったのではないかい 」

「 博士〜〜〜 な なんとか ・・・ 

 ね? クリーム・シチュウのニオイ  ですよね コレ・・・ 」

ジョーは 鼻をクンクンいわせている。

「 ああ 確かに・・ 」

そりゃ 市販のクリーム・シチュウのモト  に 規定量の水分

( 水とか酒とか牛乳とか ) を加えて煮れば

だ〜〜れがやっても  クリーム・シチュウのニオイ はしてくるワケなのだが

そこんとこをすっ飛ばし、二人は感激している。

「 ああ よかったあ〜〜〜

 あ 博士 サラダはどうです?? 」

「 おっほん 今 冷やしておるよ。

 キュウリの薄切りにな カテージ・チーズを加えさっとレモンをしぼり。

 あとは レタスにトマト、ドレッシングじゃ 」

「 わあ〜〜すご〜い〜〜 ぼくだったら キュウリを適当に切って

レタスの上の やっぱ適当に切ったトマトを乗っけて・・・

 ぐにゅ〜〜〜〜と まよねーず(^^♪ 」

「 まあ それもいいが・・・ 今日は繊細な味を楽しんでくれ 」

「 はあい。  あ もうすぐご飯、炊けますよ〜

 さあ 晩ご飯にしましょう! 」

「 おお いいなあ。  さて食器はどれを使うかなあ 

博士は食器棚の前で あれこれ吟味している。

「 え どれって・・・ いつものスープ皿で 」

「 いやいや せっかくお前の傑作を頂くんじゃ。

 ― ああ これこれ・・・ 客用の皿を使おう。 」

 

   ゴトン。  博士は濃い藍色基調の深皿を出した。

 

「 あれ こんなの、あったんだ?? 」

「 この藍色に魅かれてのう、 ワシが買っておいたのじゃよ。

 この器に盛ると なんでもとても美味しく見える 」

「 へえ・・・ あ じゃあ サラダは ・・・

 このガラスのにします? 」

ジョーは カット・グラスが美しいお皿を出してきた。

「 おお いいのう・・・  さて と 」

博士は ガス台に前に立った。

「 ジョーの傑作を 頂くとするか 」

「 うわ〜〜〜 どきどきどき☆ 」

 

   カタン。  ほわああ〜〜〜〜〜ん ・・・・

 

いい香の湯気が立ち上る。

シチュウの表面には ブロッコリーだの人参だのが顔を覗かせる。

「 こ〜れは 美味そうに仕上がったようだよ ジョー〜〜 」

「 えへへへ・・・ そうですねえ 」

 

  どれ・・・と 博士はお玉で熱々のシチュウを深皿に掬いいれた。

 

「 わ ・・・ なんかキレイですねえ 

濃紺の磁器にクリーム色のシチュウはじつに じつに美味しそうだ。

「 ほんにのう・・・ では いただくとするか 

ガラス皿に盛ったサラダ、 炊きたてご飯  飲んでごらん、と

白ワインのグラスをが並ぶ。

「 うわ・・・ な なんかレストランみたい〜〜〜 」

「 ふふふ  いいのう〜〜〜 では 

 

   いただきます♪  二人は十字を切ってからスプーンを手にとった。

 

「 ・・・ む・・・? ジョー  これ 茹でたかい 」

「 え?  あれ あれ あれ?? ニンジンとジャガイモが崩れちゃう? 」

「 ん〜〜 まあ 味はよいな  これは ?? なんだ??

 あ〜〜〜 干ししいたけかあ ・・・ 木の皮かと思った 

「 あれえ???   牡蠣ってこんなにちっさくなる??

 〜〜〜〜 なんか ゴムみたい・・・ 」

 

    「「  でも シチュウの味は いい ( よね ) 」」

 

 ― つ〜まり ジョー渾身の力作 < オイスター・シチュウ > は

 

ブロッコリーは 生のまま最後に入れたので 生煮えのガリガリ

人参は薄切りし過ぎて煮崩れ ジャガイモは < サイコロ大 > に

こだわったので やはり煮すぎで溶けて半分の大きさになっていた。

シイタケは 干しシイタケ を戻し切れていないので ただの固い欠片。

牡蠣は ひたすら流水でじゃ〜じゃ〜洗い最少から煮たので

風味は飛んでしまった・・・

 

「 んん ・・・ まあ でも オイスターのエキスは美味いよ  

「 そ そうですか ・・・ あ サラダ!  

 キュウリとチーズって合いますねえ 

「 そうじゃな  ああ〜〜 炊きたてのゴハン というものは〜〜〜

 最高のご馳走じゃな 」

「 ほんとに!!!   あ 博士 梅干し どぞ〜 」

「 おおこれはいい ・・・ んん〜〜〜  」

 

 二人は 炊きたてゴハンに 梅干し で 最高の晩餐  を

締めくくった。

 

   うん ・・・ 美味しかったよ ジョー。

 

   あ〜〜〜 おいし〜〜〜 シアワセ!

 

「 あのう  白ワイン って美味しいですね〜〜 」

「 そうだろう? 食事の時に飲むなら まあ ウチでならいいさ。

 今度は肉料理の時に 赤 を開けよう 」

「 うわ 楽しみ〜〜  野菜サラダ ・・・ 冷凍ってのもオイシイ」

「 すまん〜〜〜 冷蔵庫に入れたつもりじゃったが ・・・

 冷凍庫でじゃりじゃりになってしまった ・・・ 」

「 え でもね 熱いシチュウに合ってたし。

 キュウリとチーズって美味しいなあ〜 

 マヨネーズ どぼどぼかけなくても、美味しくたべられるんですねえ 」

「 ありがとうよ ジョー  」

「 あ〜〜 美味しい晩御飯だった〜〜 

「 〆に 炊きたてゴハン というのは いいのう〜 」

「 ね♪  あ  お茶 いれますね〜〜〜 

「 頼むよ 」

二人は ほっこり満足の笑顔だ。

 

   カタン。   玄関のドアが開いた。

 

「 ・・・ ただいま  ・・・ 」

掠れた声が聞こえた。

「 あ! フラン〜〜〜  お帰り〜〜〜〜  」

ジョーは 全てを放りだし玄関に飛んでいった。

「 お帰り フラン ! 」

「 ただいま  ・・・ あ〜〜〜〜 」

 

   ドサ。 彼女は大きなバッグを上がり框に放り投げるみたいに置く。

 

「 え なんか めっちゃ疲れてる? 

「 ウン  さあ〜〜  靴が脱げるかなあ 〜〜 」

「 ???  ねえ 電話 くれたら駅まで迎えに行ったのに 」

「 あ〜 そうねえ ・・・ でもね 電話するのもタルかったの。

 電車おりて機械的に歩いて丁度来たバスに乗ったのよ 」

「 そうなんだ?  靴は?  足 どうかしたの? 」

「 ウン ・・・ え〜〜と よ〜〜〜いしょ・・・・っとぉ 」

彼女は毟り取るみたいにスニーカーを脱いだ。

「 ・・・ ああ 脱げたわ ・・・ 」

 

    ボスン。 脱ぎ捨てられたスニーカーも 疲れた様子だ。

 

「 フランって スニーカー 好きだよね〜〜 」

「 え ・・・ だって一番楽だから 

「 どこの、履いてるの?  ぼく ないき だけど 」

「 ないき は足幅が狭くてダメなの。

 わたしは ぷ〜ま でらくらくしてるわ 

「 へええ ・・・ 女子ってこう〜〜 ヒールのある靴とか

 履くんだと思ってた 」

「 ヒール?  靴はね 楽ちんなのが一番!

 痛かったり キツかったりは ―  ポアントだけで十分 」

「 ???  あ ごはん できてるよ〜〜〜 」

「 まあ ウレシイ〜〜〜 」

 

   ズリズリズリ −−−  バッグを引きずりつつリビングのドアを開けた。

 

「 ・・・ ただいまぁ〜 もどりましたぁ ・・・ 

 あ ら   いい香り〜〜  」

「 おお お帰り〜 美味しい晩御飯があるぞ 」

「 わ〜〜 うれし〜〜〜〜 」

「 うん ? どうしたね 脚を引きずっておるようじゃが 」

「 え??? ど どうしたの?? 

 え え  さっきも引きずってた??? 」

 「 あ ・・・ 足  もう 限界なんで 〜〜〜 

「 風呂に入っておいで。  よ〜〜くマッサージして。

 晩ご飯はそのあと ゆっくりすればいい 

「 ええ そうします・・・ 

 ああ もうの〜〜んびりやりますから どうぞ皆さん お休みください。

 晩ご飯は?  ああ このお鍋をあっためるのね。 」

「 そ! それとね サラダ!  ああ 好い感じに解凍してるから・・・

 美味しいよ! 

「 ・・・ ありがと ・・・ じゃ わたし オフロ ・・・ 」

 

    ぴこ ぴこ ぴこ ・・・ ず ず  ず ・・・

 

半分足を引きずりつつ 彼女は荷物をともにバス・ルームに消えた。

 

「 ・・・ フラン 大丈夫かなあ 

「 ま あれが彼女の < 仕事 > じゃからな 

博士は 案外冷静である。

「 え  でも〜〜〜 足 引きずって すごく疲れてて 」

「 公演が近ければリハーサルも念入りになるじゃろ。

 ダンサーは皆 その繰り返しさ。

 そのために毎日 レッスンを重ねてきているのだからな 」

「 ・・・ 博士 詳しいんですね 」

「 アーテイストは皆 同じだろうよ  音楽でも踊りでも。 

「 ふうん・・・ そうなんだ・・・

 あ ぼく 片づけしときますから 博士 どうぞ〜 」

「 うむ ・・・ ああ フランソワーズにな

 脚が痛むなら 特製の鎮痛湿布があるから取りにおいで と

 伝えてくれ。  まだまだ起きておるから 

「 はい。  じゃあ 洗いモノ やっちゃお・・・

 あ そうだ! フランの好きな ふる〜ちぇ つくっとこ!

 え〜〜と あ イチゴのがある! これ 簡単でいいよね 」

ジョーはいそいそとシンクの前に立つ。

「 え〜〜と  あ この器に作ろう ・・・ キレイだなあ〜

 ぼくの分も ・・ いっかな〜〜〜 

彼は手早く 簡単なデザートを作り 食器を洗いダイニング・テーブルを

きっちり片づけた。

 

   きゅ きゅ きゅ。  台ふきんで拭けばぴかぴかだ。

 

「 ふ〜〜ん ・・・ これでいっかな〜〜〜

 シチュウは ブロッコリも煮えたと思うし ・・・ 

 サラダはすっかり解凍したし。  ゴハンはばっちり保温。

 ふる〜ちぇ のぷるぷる冷えてるし♪ 」

さささ ・・・っと周りを整頓する。

 

     あ〜〜?  なんかぼく・・・

     ウチの仕事って 好き かもなあ〜

     キッチンとかぴかぴかになるとうれしいし?

     ごはん おいし〜〜 って言ってもらうと

     めっちゃ ウレシイし♪

 

     ― フランにはず〜〜っと活躍してほしいから

     ぼく、 頑張る! ウチのことはぼくがやる。

 

     そ そうさ!   家事・育児 は ぼくがやる。

 

     え。     い   いくじ?   

     だははは〜〜〜  

     いつか  ・・・ そうなれば いいなあ

 

ジョーは一人で勇気凛々となったり 赤面し俯いたり ― 忙しい。

 

  コト。  入口で 音がした。

 

薔薇色の頬で フランソワーズがガウンに包まって立っている。

「 ??  あ フラン〜〜〜  ごはん、どうぞ! 」

「 ジョー ・・・。  あの 大丈夫? 

 顔、 真っ赤よ?  ・・・ どこか具合 ワルイの? 」

「 え あ ううん ううん なんでもないよ・・ ( へへへ )

 さ ゴハン どうぞ! 」

「 あ うれしい〜〜  なんかとてもいい匂いね 」

「 ウン。 あの ・・・ オイスター・シチュウ なんだ・・・

 これは サラダ。 」

「 あら〜〜〜 美味しそう〜〜〜   いただきます。 」

フランソワーズは 正しく十字を切ると 嬉々としてスプーンを取り上げた。

 

   カチャ  カチャ ・・・ パリパリパリ −−−

 

スプーンは止まることがなく オハシも忙しく動き・・・

 

       うわあ ・・・ なんか すご ・・・

 

「 ・・ あ〜〜〜 美味しかったぁ〜〜〜〜 」

ふる〜ちぇ の最後にヒトさじを味わうと フランソワーズはほう・・・っと

ため息をついた。

「 あ そう? よかったあ〜〜 」

「 うん、ジョーのシチュウ、すごく美味しかったわ!

 ブロッコリー? うん ちゃんとしゃきしゃき食感が残ってて いいわ〜

 わたし くたくたに煮たのってちょっとね〜〜 」

「 そ そうなんだ?? ( 温め煮で火が通ったのかな〜〜 ) 

 あ でも ニンジンとかジャガイモ・・・ 崩れてちゃってて 」

「 あら ちゃんと味はするし? シチュウの中にちゃ〜〜んと

 いるよ〜〜 って主張してたわ。 疲れてる時は そういうの、嬉しい 」

「 そ そうなんだ??  あの牡蠣 ・・・ 」

「 煮込めばね〜〜 皆あんなモンよ。 でも ちゃんと美味しい味、

 のこってたし ・・・ 」

「 そ そ そう?? ・・・ すごくうれしい〜〜〜 」

「 ?? サラダも シャキシャキ冷たくて美味しいし♪

 ふる〜ちぇ〜〜♪ わたし 大好きなの〜〜〜〜

 ジョー〜〜〜 ありがとう〜〜〜 」

 

    ちゅ。  ほっぺに ちゅう が飛んできた。

 

「 ( わっははは〜〜〜〜〜ん(^^♪ ) そ そっかあ〜〜〜 」

「 お風呂入って もう寝ちゃおうかって思ったけど

 ジョーのゴハンで 元気が出たわ 」

「 あ! そうだ 博士がね〜〜 脚の湿布、あるから

 取りにおいでって。 まだまだ起きてるから大丈夫って 」

「 あら 本当?? うれしい 〜〜〜 」

「 ・・・ ね 脚・・・ 捻挫とか したの? 」

「 え? ううん。  指が痛いのはもう慣れっこだけどね〜〜

 使い過ぎ・・・まあ オーバーワークってとこかな 

 ふふふ 金属疲労で ぱき とかね〜〜 」

「 フラン〜〜〜  冗談じゃないだろ?? 」

「 へ〜いきよぉ  そこが生身のしぶといトコでね ・・・

 なんとかかんとか保ってるってわけよ。 

 ああ でも 博士の湿布は嬉しいわあ 

「 ふうん ・・・ なにかとてもムズカシイ踊りなの?

 ぼく 聞いてもわかんないか・・・ 」

「 あ ううん。 ただね〜〜 今回は 『 白鳥〜〜 』の

 全幕 だからさ ・・・ 皆 ず〜〜〜〜〜〜〜〜っと踊りっぱなしなのよ 」

「 はくちょう〜 って  はくちょうのみずうみ のこと? 」

ジョーは両手をばさばさ・・・やってみせた。

「 あら ステキ。 ロットバルトの手下ができそう?

 そうなのよ。  

「 あ〜〜 フランは今まで ・・・ そのう パリでさ 

 踊ったこと、ないの? 」

「 うん、 全幕モノってねえ ある程度の規模以上のバレエ団じゃないと

 できないのね。 人数とか費用の問題もあって。

 まあ 部分的には踊ったのもあるけど・・・ 」

「 そうなんだ ・・・・ 大変なんだね 」

「 うん ・・・ こんな体験できるの、すごいラッキーなんだけど ね

 うん そうなんだけど 」

 

   ふう〜〜〜   なんか少し重いため息だ。

 

「 あの・・・ どうかした?  なにか あったのかい

 あ ぼくじゃわかんないかもしれないけど ・・・ 言ってよ

 聞くだけなら  できるよ 」

「 ・・・ ええ  」

 

   コトン。  花模様の湯呑みがテーブルに置かれた。

 

「 ジョー。  ねえ ・・・ 教えて?

 二ホンって  揃える ってこと、学校で習うの? 」

「 へ??? そ そろえる ?? 」

「 そう。    まえ〜〜〜 ならえ    っていうの? 

 そういうの、ずっとやってきたわけ ? 」

「 ああ ・・・前へなれえ  か ・・ う〜〜ん そうかも なあ 

 小学校・・・ いや 幼稚園でもやってるかもなあ 

「 ! そんな小さな頃から  皆で習うの? 」

「 習うっていうか ・・・ ならぶ時はこうやってね って 

 まあ 皆 自然に身につくっていうか 」

「 じゃあ 皆 得意なのね? 」

「 得意ってか  ず〜〜〜っとやらされてたからなあ ・・・

 身に沁みてるってか 自然と前後左右を見てる かも

 う〜ん 中学以降は運動部の部活だったら 当たり前 だろうなあ 

「 あ〜〜〜 そうなんだ?? そうなのね !! 」

「 ・・・ 前へ倣え  が  なにか・・・? 」

「 ・・・ うん  あのね ・・・ 」

 

 

 

  ―  場面は 数時間前のリハーサル現場に戻る。

 

「 ! は〜〜い もう一回 アタマから〜〜 

 あ ステテコのとこからね〜〜〜 」

バレエ・ミストレスの声に  全員がちょっとげんなりした様子だ。

 

( 要らぬ注: ステテコ  日本のバレエ界では『白鳥の湖』 第二幕、

 白鳥達の登場 の シーンをなぜか?昔から <ステテコ> と呼ぶ )

 

「 はい 集中して。 音 聞く!  はい スタンバイ 

 

      カタカタカタ  ・・・・  

 

ポアントの足音と共に 声にならないため息の雲が湧きあがる。

まあ 一応プロフェッショナルを目指す集団なので あからさまに表情にだしたり

不満を言ったりは  しない。  黙ってスタンバイ する。

 

   けど。  雰囲気は 重苦しい。  ― ものすごく。

 

「 音 でます! 」

 

  ♪♪♪〜〜〜〜 ♪♪ 〜〜〜〜

 

皆 もう隅々までよ〜〜〜く知っている < あのメロディ > に乗って

ダンサーが 一人づつ下手から出てくる。

「 ・・・ そ〜〜 そ〜〜〜  その音どりね〜〜〜 

 合わせて 合わせて 前 みて  横もよ!  

なんとか最後尾まで26人 いや 26羽の白鳥たちがセンターに並んだ。

 

   ら〜〜 らららら   ら〜〜らら〜〜〜〜〜 ♪

 

白鳥たちが一斉に羽ばたく ― 同じタイミングで。

 

「 あ  ん〜〜〜〜 と 」

「 ・・・・ 」

バレエ・ミストレスを マダムがさりげなく止めた。

「 あの・・・? 」

「 うん。  ああ 皆 頑張ったわね  今日はこれで オーバー。

 お疲れ様でした。  明日の朝クラス、遅刻しないでね ! 」

 

   あは・・・   軽い笑い声も起き ダンサー達は帰り支度を始めた。

 

「 あの マダム ・・・ あそこの音取り 」

「 ええ 合ってないわね。   ― ここは私が預かるわ 

 ユミちゃん ありがとう〜〜 お疲れ様ね 」

「 あ はい ・・・ 」

「 ね 掃除してる研究生たち 呼んでくれる? 」

「 はい。  ― 研究生さんたち〜〜 ちょっと来て〜〜 」

 

   はあい。    カタカタカタ −−−−

 

まだ正式団員になれていない・若いダンサー達が駆けてきた。

「 お疲れ様ね 皆。 初めてで大変でしょ。 」

全員が 疲れた顔だけど少し 笑った。

「 あのね、聞いてるだけでいいから。

 みちよ。 そうよね ソッテは爪先を伸ばしてジャンプよね。

 わかってるわ、フランソワーズ。  あなたの音取りが正しいわ。

 ルリ。 テンポは一定でなければダメよね。

 あかり。 アームス・アンオーはちゃんと高さがなければ だめよね。

 ゆみこ。 アラベスクの脚は最低でも90度って教えてるわよね。 」

 

名前を呼ばれ 若いダンサー達は皆 こくこく・・・頷く。

 

「 本当は全員が正しい音取りで正しいステップを踏んで 動くべき よ。

 そうすれば すぐに全員揃うはず よね。 」

マダムは 一旦、言葉を切った。

「 ただ ね ・・・ あれだけの集団になるとどうしても どうしても

 すこし ほんの少し ― 遅れるのね 

 そこをね。  前後左右を見て ―  感じて 揃えるの。

 ―  それが コールド・バレエ なの。 

 そうね 前へ倣え〜〜 を思い出して? 」

 

 

 

「 ・・・ってマダムが仰って ・・・ 」

「 あ〜〜 そうなんだ〜〜〜 」

「 ジョー。  どう思う? 

「 ぼく。  バレエ わかんないけど  ― わかる。

 マダムのいいたいこと   ぼく わかるよ 」

 

    ジョーの 茶色の瞳が温かくフランソワーズを眺めた。

 

Last updated : 01.10.2023.               index      /      next

 

************    途中ですが

平ゼロの 日本で暮らし始め少し 経ったころ かな〜〜〜

バレエ物 もちらっと入る かも ・・・

ジョー君、 家事に目覚めております (^^)