『 鳥になって ― (1) ― 』
カタ カタ カタ コッ・・・ コン コン ・・・
キッチンからはかなり前から なんとな〜〜く不安そうな音が
断続的に聞こえてきている。
・・・ その割りにはいわゆる いい匂い とか 温かい湯気 とかは
全然漂ってこない。
「 ― うん? フランソワーズはまだ帰ってきておらんのかな 」
ギルモア博士は 夕刊から視線を上げ首を廻らせた。
「 ・・・ こんな時間か ・・・ ということはキッチンにいるのは
ジョー か?? 」
どれ と 博士は肘掛椅子から立ち上がった。
「 おや カーテンもまだ開けっ放しじゃったか ・・・ 」
いかん いかん、と 博士はリビングとダイニングのカーテンを引いた。
夕闇がすっかり辺りを支配し始めていた。
「 おや ・・・ 夕陽に富士の姿がくっきり じゃ ・・・
― 美しいのう ・・・ ほんにこの地に住んでよかった なあ 」
しばらく 夕闇迫る光景に見とれていたが 少し冷え込んできたので
さすがに 部屋の奥に引っ込んだ。
「 おお 冷える・・・ どれ ヒーターをいれるか・・・
ここは陽当たり良好じゃから 太陽光発電でほとんど賄えるな 」
ゴ −−−− 広い居間も ほんわり温かくなってきた。
トントン トン ・・・・ ギュ ギュ
キッチンからの音はまだ続いている。
「 ?? なにをしておるのかな ・・・ 手こずっておるか
おい ・・・ ジョー? 手伝うぞ 」
パタン −−− キッチンのスウィング・ドアを開け覗きこむ。
「 ジョー ・・・? 」
「 え〜〜と ・・・ まず 出汁を作る んだよなあ 」
茶髪ボーイが 花柄のエプロンをしてガス台の前でぶつぶつ言っている。
「 ・・・ ジョー ・・・ どうか したかい? 」
「 そして 火の通りにくいモノから ・・・ か。
あ 博士〜〜 あのう 晩ご飯 まだなんですぅ〜〜
すいません〜〜〜 」
ジョーは やっと鍋から顔を上げた。
「 ああ? まだ そんな時間ではないよ ・・・
やあ 今日はジョーが夕食当番なのかい 」
「 え ・・・ あ いや。 そうじゃないんですけど ・・・
フラン、少し遅くなる って 」
「 ・・・あ〜〜 公演も近いからのう ・・・
リハーサルで忙しいのじゃろうな 」
「 ええ そうらしくて。
ぼく 今日仕事 早上がりだったから ― 作ろうかなって
そのう ・・・ 晩ご飯 を 」
「 え??? ジョーが かい ― できるのか?? 」
「 ・・・ 博士〜〜〜 そんなに驚かないでくださいよう〜〜
ぼくだって ・・・ なんとか なる かも 」
「 いや いや 申し訳ないな
それで ジョーは何を作ろうとしておるのかい 」
「 え あのう ・・・ へへへ クリーム・シチュウ ・・・
で できるかな ・・・ あの 冷蔵庫に牡蠣 あったし 」
「 おお オイスター・シチュウか! それは美味そうじゃなあ
・・・で 大丈夫 かい? 」
「 えっと ・・・食糧庫に シチュウのもと ってのがあったから
それ使いマス。 箱の裏に < つくり方 > って あるし 」
「 そうか〜〜 あの ワシができることがあれば 言っておくれ。 」
「 あ〜〜 ・・・・ えっと 炊飯器はonになってるし
あ〜〜 そのう シチュウとご飯 だけでいいですか 」
「 そうか〜 では ワシはサラダでも作ろうかの。
野菜室を覗いてみよう 」
「 わ〜〜〜〜 お願いします〜〜〜 」
「 よおし 任せておくれ。 ワシはこれでも若い頃はなあ
ちゃんと自炊しておったのだぞ 」
「 へ え ・・ 」
「 その頃は あの便利なカップ麺 なぞ 身近になかったからなあ 」
「 へ え ・・・ 」
「 ど〜れ ・・・ ああ レタスにキュウリか
トマトもあるな〜〜 うん 楽勝じゃ 」
博士は 野菜類をシンクに運び始めた。
「 あ ・・・ それじゃ お願いシマス。
ぼく シチュウに集中しますね 」
「 頼む。 あ! ジョー。 牡蠣はなあ 入念に 洗う ことが
必要だぞ。 たぶん 生食用 ではないだろう? 」
「 え ・・・ あ 加熱用 って書いてある! 」
「 頼むぞ〜〜 」
「 はい! 」
その後 二人は各自の<作業>に 没頭した。
「 ふう〜〜 なんとか ・・・ 切れたかな・・
えっと次は 茹でるんだよなあ 」
ジョーは ぶつぶつ言いつつガス台の前に移動する。
「 ・・・ あのな 火の通り難いものから 先 だぞ? 」
博士は自分自身の手元をみつつも 声をかける。
「 え?? あ そか・・・!
ブロッコリーから入れるトコだった・・・
えっと ニンジン かなあ 」
「 ・・・ ニンニクを一かけ。 風味があがる 」
「 あ そか ・・・ あと じゃがいも たまねぎ シイタケ で
シチュウの元 で・・・ あれ? 牡蠣はいついれるんだ??? 」
「 生煮えは × だが 煮過ぎも アウトじゃ 」
「 あ そか ・・・ 最後に入れるのか ・・・
あれ?? 味付けは 」
「 料理酒を少々 あとは味見して 塩 コショウ ! 」
「 あ そか ・・・ 」
「 ― と シチュウの元 の箱の裏に記載されておるはずだぞ 」
「 あ そか ・・・ あ ほんとだあ〜〜〜
・・・ふんふん なるほど ・・・ 牡蠣は洗うんだな 」
「 だ〜〜〜から トリセツはしっかり読む! いいな 」
「 はあい ・・・ そっか そっか なるほど〜〜〜
トリセツって便利ですねえ! ぼく 初めてちゃんと読んだかも 」
「 ・・ やれやれ ・・・・
コイツ、 < 009のトリセツ > をちゃんと読んでおるのか?
・・ まさか 本棚の間につっこんでそのまま とか
面倒〜〜 とか言って捨てたりしてないだろな??? 」
博士は 大いなる疑念の眼差しである。
トン トン トン −−−−
ご本人は背をまるめ 手元に集中しつつ かなりおっかなびっくり・・・
ニンジンのいちょう切り に挑戦していた。
「 ふん ・・・ まあ 母国語だし甚だしいマチガイはないだろうさ
さて ワシもサラダに集中するか ・・・ 」
博士も キュウリの薄切りに挑戦し始めた。
ぐつ ぐつ ぐつ 〜〜〜〜〜〜
かなり経って 鍋が グツグツ ・・・ なかなかいい音を立て始めた。
ほどなくして これもなかなか美味しそうな匂いも流れてきた。
「 お〜〜 ジョー なんか上手く行ったのではないかい 」
「 博士〜〜〜 な なんとか ・・・
ね? クリーム・シチュウのニオイ ですよね コレ・・・ 」
ジョーは 鼻をクンクンいわせている。
「 ああ 確かに・・ 」
そりゃ 市販のクリーム・シチュウのモト に 規定量の水分
( 水とか酒とか牛乳とか ) を加えて煮れば
だ〜〜れがやっても クリーム・シチュウのニオイ はしてくるワケなのだが
そこんとこをすっ飛ばし、二人は感激している。
「 ああ よかったあ〜〜〜
あ 博士 サラダはどうです?? 」
「 おっほん 今 冷やしておるよ。
キュウリの薄切りにな カテージ・チーズを加えさっとレモンをしぼり。
あとは レタスにトマト、ドレッシングじゃ 」
「 わあ〜〜すご〜い〜〜 ぼくだったら キュウリを適当に切って
レタスの上の やっぱ適当に切ったトマトを乗っけて・・・
ぐにゅ〜〜〜〜と まよねーず(^^♪ 」
「 まあ それもいいが・・・ 今日は繊細な味を楽しんでくれ 」
「 はあい。 あ もうすぐご飯、炊けますよ〜
さあ 晩ご飯にしましょう! 」
「 おお いいなあ。 さて食器はどれを使うかなあ 」
博士は食器棚の前で あれこれ吟味している。
「 え どれって・・・ いつものスープ皿で 」
「 いやいや せっかくお前の傑作を頂くんじゃ。
― ああ これこれ・・・ 客用の皿を使おう。 」
ゴトン。 博士は濃い藍色基調の深皿を出した。
「 あれ こんなの、あったんだ?? 」
「 この藍色に魅かれてのう、 ワシが買っておいたのじゃよ。
この器に盛ると なんでもとても美味しく見える 」
「 へえ・・・ あ じゃあ サラダは ・・・
このガラスのにします? 」
ジョーは カット・グラスが美しいお皿を出してきた。
「 おお いいのう・・・ さて と 」
博士は ガス台に前に立った。
「 ジョーの傑作を 頂くとするか 」
「 うわ〜〜〜 どきどきどき☆ 」
カタン。 ほわああ〜〜〜〜〜ん ・・・・
いい香の湯気が立ち上る。
シチュウの表面には ブロッコリーだの人参だのが顔を覗かせる。
「 こ〜れは 美味そうに仕上がったようだよ ジョー〜〜 」
「 えへへへ・・・ そうですねえ 」
どれ・・・と 博士はお玉で熱々のシチュウを深皿に掬いいれた。
「 わ ・・・ なんかキレイですねえ 」
濃紺の磁器にクリーム色のシチュウはじつに じつに美味しそうだ。
「 ほんにのう・・・ では いただくとするか 」
ガラス皿に盛ったサラダ、 炊きたてご飯 飲んでごらん、と
白ワインのグラスをが並ぶ。
「 うわ・・・ な なんかレストランみたい〜〜〜 」
「 ふふふ いいのう〜〜〜 では 」
いただきます♪ 二人は十字を切ってからスプーンを手にとった。
「 ・・・ む・・・? ジョー これ 茹でたかい 」
「 え? あれ あれ あれ?? ニンジンとジャガイモが崩れちゃう? 」
「 ん〜〜 まあ 味はよいな これは ?? なんだ??
あ〜〜〜 干ししいたけかあ ・・・ 木の皮かと思った 」
「 あれえ??? 牡蠣ってこんなにちっさくなる??
〜〜〜〜 なんか ゴムみたい・・・ 」
「「 でも シチュウの味は いい ( よね ) 」」
― つ〜まり ジョー渾身の力作 < オイスター・シチュウ > は
ブロッコリーは 生のまま最後に入れたので 生煮えのガリガリ
人参は薄切りし過ぎて煮崩れ ジャガイモは < サイコロ大 > に
こだわったので やはり煮すぎで溶けて半分の大きさになっていた。
シイタケは 干しシイタケ を戻し切れていないので ただの固い欠片。
牡蠣は ひたすら流水でじゃ〜じゃ〜洗い最少から煮たので
風味は飛んでしまった・・・
「 んん ・・・ まあ でも オイスターのエキスは美味いよ 」
「 そ そうですか ・・・ あ サラダ!
キュウリとチーズって合いますねえ 」
「 そうじゃな ああ〜〜 炊きたてのゴハン というものは〜〜〜
最高のご馳走じゃな 」
「 ほんとに!!! あ 博士 梅干し どぞ〜 」
「 おおこれはいい ・・・ んん〜〜〜 」
二人は 炊きたてゴハンに 梅干し で 最高の晩餐 を
締めくくった。
うん ・・・ 美味しかったよ ジョー。
あ〜〜〜 おいし〜〜〜 シアワセ!
「 あのう 白ワイン って美味しいですね〜〜 」
「 そうだろう? 食事の時に飲むなら まあ ウチでならいいさ。
今度は肉料理の時に 赤 を開けよう 」
「 うわ 楽しみ〜〜 野菜サラダ ・・・ 冷凍ってのもオイシイ」
「 すまん〜〜〜 冷蔵庫に入れたつもりじゃったが ・・・
冷凍庫でじゃりじゃりになってしまった ・・・ 」
「 え でもね 熱いシチュウに合ってたし。
キュウリとチーズって美味しいなあ〜
マヨネーズ どぼどぼかけなくても、美味しくたべられるんですねえ 」
「 ありがとうよ ジョー 」
「 あ〜〜 美味しい晩御飯だった〜〜 」
「 〆に 炊きたてゴハン というのは いいのう〜 」
「 ね♪ あ お茶 いれますね〜〜〜 」
「 頼むよ 」
二人は ほっこり満足の笑顔だ。
カタン。 玄関のドアが開いた。
「 ・・・ ただいま ・・・ 」
掠れた声が聞こえた。
「 あ! フラン〜〜〜 お帰り〜〜〜〜 」
ジョーは 全てを放りだし玄関に飛んでいった。
「 お帰り フラン ! 」
「 ただいま ・・・ あ〜〜〜〜 」
ドサ。 彼女は大きなバッグを上がり框に放り投げるみたいに置く。
「 え なんか めっちゃ疲れてる? 」
「 ウン さあ〜〜 靴が脱げるかなあ 〜〜 」
「 ??? ねえ 電話 くれたら駅まで迎えに行ったのに 」
「 あ〜 そうねえ ・・・ でもね 電話するのもタルかったの。
電車おりて機械的に歩いて丁度来たバスに乗ったのよ 」
「 そうなんだ? 靴は? 足 どうかしたの? 」
「 ウン ・・・ え〜〜と よ〜〜〜いしょ・・・・っとぉ 」
彼女は毟り取るみたいにスニーカーを脱いだ。
「 ・・・ ああ 脱げたわ ・・・ 」
ボスン。 脱ぎ捨てられたスニーカーも 疲れた様子だ。
「 フランって スニーカー 好きだよね〜〜 」
「 え ・・・ だって一番楽だから 」
「 どこの、履いてるの? ぼく ないき だけど 」
「 ないき は足幅が狭くてダメなの。
わたしは ぷ〜ま でらくらくしてるわ 」
「 へええ ・・・ 女子ってこう〜〜 ヒールのある靴とか
履くんだと思ってた 」
「 ヒール? 靴はね 楽ちんなのが一番!
痛かったり キツかったりは ― ポアントだけで十分 」
「 ??? あ ごはん できてるよ〜〜〜 」
「 まあ ウレシイ〜〜〜 」
ズリズリズリ −−− バッグを引きずりつつリビングのドアを開けた。
「 ・・・ ただいまぁ〜 もどりましたぁ ・・・
あ ら いい香り〜〜 」
「 おお お帰り〜 美味しい晩御飯があるぞ 」
「 わ〜〜 うれし〜〜〜〜 」
「 うん ? どうしたね 脚を引きずっておるようじゃが 」
「 え??? ど どうしたの??
え え さっきも引きずってた??? 」
「 あ ・・・ 足 もう 限界なんで 〜〜〜 」
「 風呂に入っておいで。 よ〜〜くマッサージして。
晩ご飯はそのあと ゆっくりすればいい 」
「 ええ そうします・・・
ああ もうの〜〜んびりやりますから どうぞ皆さん お休みください。
晩ご飯は? ああ このお鍋をあっためるのね。 」
「 そ! それとね サラダ! ああ 好い感じに解凍してるから・・・
美味しいよ! 」
「 ・・・ ありがと ・・・ じゃ わたし オフロ ・・・ 」
ぴこ ぴこ ぴこ ・・・ ず ず ず ・・・
半分足を引きずりつつ 彼女は荷物をともにバス・ルームに消えた。
「 ・・・ フラン 大丈夫かなあ 」
「 ま あれが彼女の < 仕事 > じゃからな 」
博士は 案外冷静である。
「 え でも〜〜〜 足 引きずって すごく疲れてて 」
「 公演が近ければリハーサルも念入りになるじゃろ。
ダンサーは皆 その繰り返しさ。
そのために毎日 レッスンを重ねてきているのだからな 」
「 ・・・ 博士 詳しいんですね 」
「 アーテイストは皆 同じだろうよ 音楽でも踊りでも。 」
「 ふうん・・・ そうなんだ・・・
あ ぼく 片づけしときますから 博士 どうぞ〜 」
「 うむ ・・・ ああ フランソワーズにな
脚が痛むなら 特製の鎮痛湿布があるから取りにおいで と
伝えてくれ。 まだまだ起きておるから 」
「 はい。 じゃあ 洗いモノ やっちゃお・・・
あ そうだ! フランの好きな ふる〜ちぇ つくっとこ!
え〜〜と あ イチゴのがある! これ 簡単でいいよね 」
ジョーはいそいそとシンクの前に立つ。
「 え〜〜と あ この器に作ろう ・・・ キレイだなあ〜
ぼくの分も ・・ いっかな〜〜〜 」
彼は手早く 簡単なデザートを作り 食器を洗いダイニング・テーブルを
きっちり片づけた。
きゅ きゅ きゅ。 台ふきんで拭けばぴかぴかだ。
「 ふ〜〜ん ・・・ これでいっかな〜〜〜
シチュウは ブロッコリも煮えたと思うし ・・・
サラダはすっかり解凍したし。 ゴハンはばっちり保温。
ふる〜ちぇ のぷるぷる冷えてるし♪ 」
さささ ・・・っと周りを整頓する。
あ〜〜? なんかぼく・・・
ウチの仕事って 好き かもなあ〜
キッチンとかぴかぴかになるとうれしいし?
ごはん おいし〜〜 って言ってもらうと
めっちゃ ウレシイし♪
― フランにはず〜〜っと活躍してほしいから
ぼく、 頑張る! ウチのことはぼくがやる。
そ そうさ! 家事・育児 は ぼくがやる。
え。 い いくじ?
だははは〜〜〜
いつか ・・・ そうなれば いいなあ
ジョーは一人で勇気凛々となったり 赤面し俯いたり ― 忙しい。
コト。 入口で 音がした。
薔薇色の頬で フランソワーズがガウンに包まって立っている。
「 ?? あ フラン〜〜〜 ごはん、どうぞ! 」
「 ジョー ・・・。 あの 大丈夫?
顔、 真っ赤よ? ・・・ どこか具合 ワルイの? 」
「 え あ ううん ううん なんでもないよ・・ ( へへへ )
さ ゴハン どうぞ! 」
「 あ うれしい〜〜 なんかとてもいい匂いね 」
「 ウン。 あの ・・・ オイスター・シチュウ なんだ・・・
これは サラダ。 」
「 あら〜〜〜 美味しそう〜〜〜 いただきます。 」
フランソワーズは 正しく十字を切ると 嬉々としてスプーンを取り上げた。
カチャ カチャ ・・・ パリパリパリ −−−
スプーンは止まることがなく オハシも忙しく動き・・・
うわあ ・・・ なんか すご ・・・
「 ・・ あ〜〜〜 美味しかったぁ〜〜〜〜 」
ふる〜ちぇ の最後にヒトさじを味わうと フランソワーズはほう・・・っと
ため息をついた。
「 あ そう? よかったあ〜〜 」
「 うん、ジョーのシチュウ、すごく美味しかったわ!
ブロッコリー? うん ちゃんとしゃきしゃき食感が残ってて いいわ〜
わたし くたくたに煮たのってちょっとね〜〜 」
「 そ そうなんだ?? ( 温め煮で火が通ったのかな〜〜 )
あ でも ニンジンとかジャガイモ・・・ 崩れてちゃってて 」
「 あら ちゃんと味はするし? シチュウの中にちゃ〜〜んと
いるよ〜〜 って主張してたわ。 疲れてる時は そういうの、嬉しい 」
「 そ そうなんだ?? あの牡蠣 ・・・ 」
「 煮込めばね〜〜 皆あんなモンよ。 でも ちゃんと美味しい味、
のこってたし ・・・ 」
「 そ そ そう?? ・・・ すごくうれしい〜〜〜 」
「 ?? サラダも シャキシャキ冷たくて美味しいし♪
ふる〜ちぇ〜〜♪ わたし 大好きなの〜〜〜〜
ジョー〜〜〜 ありがとう〜〜〜 」
ちゅ。 ほっぺに ちゅう が飛んできた。
「 ( わっははは〜〜〜〜〜ん(^^♪ ) そ そっかあ〜〜〜 」
「 お風呂入って もう寝ちゃおうかって思ったけど
ジョーのゴハンで 元気が出たわ 」
「 あ! そうだ 博士がね〜〜 脚の湿布、あるから
取りにおいでって。 まだまだ起きてるから大丈夫って 」
「 あら 本当?? うれしい 〜〜〜 」
「 ・・・ ね 脚・・・ 捻挫とか したの? 」
「 え? ううん。 指が痛いのはもう慣れっこだけどね〜〜
使い過ぎ・・・まあ オーバーワークってとこかな
ふふふ 金属疲労で ぱき とかね〜〜 」
「 フラン〜〜〜 冗談じゃないだろ?? 」
「 へ〜いきよぉ そこが生身のしぶといトコでね ・・・
なんとかかんとか保ってるってわけよ。
ああ でも 博士の湿布は嬉しいわあ 」
「 ふうん ・・・ なにかとてもムズカシイ踊りなの?
ぼく 聞いてもわかんないか・・・ 」
「 あ ううん。 ただね〜〜 今回は 『 白鳥〜〜 』の
全幕 だからさ ・・・ 皆 ず〜〜〜〜〜〜〜〜っと踊りっぱなしなのよ 」
「 はくちょう〜 って はくちょうのみずうみ のこと? 」
ジョーは両手をばさばさ・・・やってみせた。
「 あら ステキ。 ロットバルトの手下ができそう?
そうなのよ。
」
「 あ〜〜 フランは今まで ・・・ そのう パリでさ
踊ったこと、ないの? 」
「 うん、 全幕モノってねえ ある程度の規模以上のバレエ団じゃないと
できないのね。 人数とか費用の問題もあって。
まあ 部分的には踊ったのもあるけど・・・ 」
「 そうなんだ ・・・・ 大変なんだね 」
「 うん ・・・ こんな体験できるの、すごいラッキーなんだけど ね
うん そうなんだけど 」
ふう〜〜〜 なんか少し重いため息だ。
「 あの・・・ どうかした? なにか あったのかい
あ ぼくじゃわかんないかもしれないけど ・・・ 言ってよ
聞くだけなら できるよ 」
「 ・・・ ええ 」
コトン。 花模様の湯呑みがテーブルに置かれた。
「 ジョー。 ねえ ・・・ 教えて?
二ホンって 揃える ってこと、学校で習うの? 」
「 へ??? そ そろえる ?? 」
「 そう。 まえ〜〜〜 ならえ っていうの?
そういうの、ずっとやってきたわけ ? 」
「 ああ ・・・前へなれえ か ・・ う〜〜ん そうかも なあ
小学校・・・ いや 幼稚園でもやってるかもなあ 」
「 ! そんな小さな頃から 皆で習うの? 」
「 習うっていうか ・・・ ならぶ時はこうやってね って
まあ 皆 自然に身につくっていうか 」
「 じゃあ 皆 得意なのね? 」
「 得意ってか ず〜〜〜っとやらされてたからなあ ・・・
身に沁みてるってか 自然と前後左右を見てる かも
う〜ん 中学以降は運動部の部活だったら 当たり前 だろうなあ 」
「 あ〜〜〜 そうなんだ?? そうなのね !! 」
「 ・・・ 前へ倣え が なにか・・・? 」
「 ・・・ うん あのね ・・・ 」
― 場面は 数時間前のリハーサル現場に戻る。
「 ! は〜〜い もう一回 アタマから〜〜
あ ステテコのとこからね〜〜〜 」
バレエ・ミストレスの声に 全員がちょっとげんなりした様子だ。
( 要らぬ注: ステテコ 日本のバレエ界では『白鳥の湖』 第二幕、
白鳥達の登場 の シーンをなぜか?昔から <ステテコ> と呼ぶ )
「 はい 集中して。 音 聞く! はい スタンバイ 」
カタカタカタ ・・・・
ポアントの足音と共に 声にならないため息の雲が湧きあがる。
まあ 一応プロフェッショナルを目指す集団なので あからさまに表情にだしたり
不満を言ったりは しない。 黙ってスタンバイ する。
けど。 雰囲気は 重苦しい。 ― ものすごく。
「 音 でます! 」
♪♪♪〜〜〜〜 ♪♪ 〜〜〜〜
皆 もう隅々までよ〜〜〜く知っている < あのメロディ > に乗って
ダンサーが 一人づつ下手から出てくる。
「 ・・・ そ〜〜 そ〜〜〜 その音どりね〜〜〜
合わせて 合わせて 前 みて 横もよ! 」
なんとか最後尾まで26人 いや 26羽の白鳥たちがセンターに並んだ。
ら〜〜 らららら ら〜〜らら〜〜〜〜〜 ♪
白鳥たちが一斉に羽ばたく ― 同じタイミングで。
「 あ ん〜〜〜〜 と 」
「 ・・・・ 」
バレエ・ミストレスを マダムがさりげなく止めた。
「 あの・・・? 」
「 うん。 ああ 皆 頑張ったわね 今日はこれで オーバー。
お疲れ様でした。 明日の朝クラス、遅刻しないでね ! 」
あは・・・ 軽い笑い声も起き ダンサー達は帰り支度を始めた。
「 あの マダム ・・・ あそこの音取り 」
「 ええ 合ってないわね。 ― ここは私が預かるわ
ユミちゃん ありがとう〜〜 お疲れ様ね 」
「 あ はい ・・・ 」
「 ね 掃除してる研究生たち 呼んでくれる? 」
「 はい。 ― 研究生さんたち〜〜 ちょっと来て〜〜 」
はあい。 カタカタカタ −−−−
まだ正式団員になれていない・若いダンサー達が駆けてきた。
「 お疲れ様ね 皆。 初めてで大変でしょ。 」
全員が 疲れた顔だけど少し 笑った。
「 あのね、聞いてるだけでいいから。
みちよ。 そうよね ソッテは爪先を伸ばしてジャンプよね。
わかってるわ、フランソワーズ。 あなたの音取りが正しいわ。
ルリ。 テンポは一定でなければダメよね。
あかり。 アームス・アンオーはちゃんと高さがなければ だめよね。
ゆみこ。 アラベスクの脚は最低でも90度って教えてるわよね。 」
名前を呼ばれ 若いダンサー達は皆 こくこく・・・頷く。
「 本当は全員が正しい音取りで正しいステップを踏んで 動くべき よ。
そうすれば すぐに全員揃うはず よね。 」
マダムは 一旦、言葉を切った。
「 ただ ね ・・・ あれだけの集団になるとどうしても どうしても
すこし ほんの少し ― 遅れるのね
そこをね。 前後左右を見て ― 感じて 揃えるの。
― それが コールド・バレエ なの。
そうね 前へ倣え〜〜 を思い出して? 」
「 ・・・ってマダムが仰って ・・・ 」
「 あ〜〜 そうなんだ〜〜〜 」
「 ジョー。 どう思う? 」
「 ぼく。 バレエ わかんないけど ― わかる。
マダムのいいたいこと ぼく わかるよ 」
ジョーの 茶色の瞳が温かくフランソワーズを眺めた。
Last updated : 01.10.2023.
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************ 途中ですが
平ゼロの 日本で暮らし始め少し 経ったころ かな〜〜〜
バレエ物 もちらっと入る かも ・・・
ジョー君、 家事に目覚めております (^^)